2012年08月12日
現在、アイリッシュリネンハンカチプロジェクトのほかにアパレル向けのリネンを先染で展開するプロジェクトも進行中です。アパレル向けにはオフ白の150番手の糸を手に入れ、それを先染にすることが可能なのかに挑戦したいと思っております。
今の時代の織機と糸の関係では細い糸を薄く織るのは比較的簡単で厚く織るのは難しいものです。昔はなぜあれほどまでに細い糸が出回っていたかというと手織りの時代というのは細い糸に需要があったからです。手織りするとしっかりとした厚い織物が出来上がるのが普通です。それは手機には巻き取りのギアがついていないので、織れるだけしっかりと織って織った分を巻き取るという織りかたをするからです。
今の時代の織機にはギアがついていますので、厚さの調整は非常に簡単です。一般的には程よい厚さに織ることを選ぶのですが、技術的には昔の手織の時代もののように細い糸を使ったしっかりとしたものを織るのは難しいものです。
25番手の織物、100番手の織物、この糸の細さの差が4倍あるということは、同じ規格で織物を織り上げたときに4倍の重さの差なのです。たとえば、1mに1500本X1500本の生機織物なら、25番手の織物は理論的に200g/平米で、実質的には、織り縮みや加工での縮みがありますので、230g/平米くらいになります。100番手なら、理論的には50g/平米で、実質的には55g程度でしょうか。
織筬の厚さなんかも影響をしてくるので一概には言えませんが、25番手と100番手では重さの差で4倍、これは見た目の糸の太さで2倍程度になります。縦横の密度を2倍上げてあげれば、25番手の織物を2倍に縮小した織物が出来上がることになるのです。110g程度の織物が織り上がることになります。生産性は切れない糸の場合だと横糸が増えた分2倍落ちることになり、切れやすい糸だと単純に縦糸も2倍、実際には、100番手となると糸の切れやすさが本数以上に増してしまいますのでそれ以上に生産性は落ちます。実質的な生産性は掛け算になりますので、生産性は6倍から10倍落ちることになります。
これを高密度化して2割密度を上げたり、極限に挑めば挑むほど、生産性が20倍、30倍低いような織物を作ることは可能です。本来、織物の価値というのはそういう織るのに掛かる時間にあったはずで、そこから良い糸を求めるような話になって、最終的にはトータルで高品位なものが出来上がっていました。今の時代は簡単に織れる織物が増えてしまっていますので打ち込みだけの本数の差ほどしか、生産性の低下はなくなってしまっています。
私自身は、織機の織るスピードというものも糸に掛かる負荷の観点から、大事ではないかと思っております。高速の織機というのは糸を乱暴に扱う織機ですので、糸の表面がどうしても荒れてしまいます。実際にはスピードの問題よりも織機の調整の問題のほうが大事です。織れているからといって、織機や麻糸の悲鳴が聞こえないと出来上がるものというのは、とりあえず織ったみたいなものになってしまいます。
アパレル向けの150番手に着手しますが、100番手のさらに2倍から5倍以上の生産性の低下だろうか、普通の織物を作るのの何十倍の時間を掛ける世界ですので、織ることに手間を掛けるという織物の本質に迫った生地が出来上がると思います。普通だとそこまで手間がかかるとドンキホーテー。
けど、それを馬鹿だなあと思うとに取り組んでいるうちに、他の人には出来ないものも一つ二つ生まれてくるのだと思います。私自身は技術依存というのは好きではないのです、布というのが単に技術だけでできる世界ではないと思います。数値的なものを書きましたが実際は人の感性というものが大事で布を作るときの布に対する思い入れのようなものが大事だろうなあと思っています。
ものづくりに対するコンセプチュアルな方向性があやふやだとそれがものに出てしまいます。これも私自身の持論で反論は多いと思いますが、自分自身が作る布なので自分が満足するものを作り上げる部分を残しておくことが一番大事なんだろうと思います。これは理想論をいっているのではありませんので、現実的には高度な仕事ができる環境を持って実際に取り組んで答えを出していくということだと思います。