2009年11月30日
アイリッシュリネンプロジェクトのほうが、進んでいます。今、ネットで流れているアイリッシュリネンとうたわれているもののほとんどが中国などでの紡績だったりするのに比べ、本当のアイリッシュリネンを使っているということで、上海の展示会でも、ヨーロッパ人からも注目を浴びました。今は、染めないでそのままのアイボリーで織ろうと機を作っています。
ヨーロッパの人でも、もう、本物のアイリッシュリネン糸を織ったものを手に入れることはできない時代です。アイルランドで織られた織物という意味でアイリッシュリネンと呼ばれるケースがあったりすることもあったりするのですが、今では中国紡績糸やイタリア紡績の糸などが使われています。日本では量販系で安く、”アイリッシュリネン”と謳われていますが、いまやデッドストックの本物のアイリッシュリネンは入手がほぼ不可能になって、中国紡績糸やイタリア紡績糸が使われています。(北アイルランド紡績糸の情報をお持ちの方おられましたら情報お待ちしております。)
これは中国企業やイタリア企業が悪いというわけではありません。中国企業にしてもイタリアの企業にしてもアイルランドの紡績糸は手に入らないことを知っているので、そんなあからさまな偽装はしません。流通過程で、”アイリッシュリネン”に化けるようです。イタリア紡績の糸を”アイリッシュリネン”と呼ぶかたもあるようですが、実際のところではありません。
林与も使用しているフランスやベルギーのフラックスを使った中国紡績糸などは、量販系では、アイリッシュリネン、フランスリネンやベルギーリネン、ヨーロピアンリネンと呼ばれていますが、量販や資材系からするとプレミアクラスのリネンに相当するのかも知れませんが、服飾系では当たり前のことで、リネン業界のプロたちは、昔有ったような、超良質のリネン糸が手に入らなくなってリネンの質の低下を嘆いているところです。今の中国紡績も世界トップクラスでヨーロッパの紡績を凌ぐほどになり決して悪いわけではありませんが、原料の質に関してはフランス原料やベルギー原料であっても、昔ほどの良い原料は手に入りません。
本物のアイリッシュリネンというのは、量販クラスで言われるところの”いわゆるアイリッシュリネン”とは違って、原料の質から違うので本当に良いものです。展示会で見ていただいたリネンの目利きの方ほど、その違いを実感されていました。日本の昔の麻の良さと共通したものがあります。
けど、このことは、アイリッシュリネンだけにいえるのではなく、たとえば、西陣織や大島紬に関しても、韓国や中国から安いものがたくさん入ってきています。この前も、70歳を超えられる呉服商さんが引退されるということでご挨拶にきていただいたのですが、呉服に関する海外製品の産地偽装で呉服産地が壊滅的な状況に陥ったという話をされていました。どうも、産地で織れない量のものが安い価格で産地で出回っていることから、韓国からの商品のエンドを切って日本製のラベルを付けて売っているようだということです。近江上布に関してもネットでは安いものが出てきていますが???で、本当に近江湖東産なのかというレベルのものです。
なぜ、今、林与が産地での織りにこだわるのかというと、近江湖東の麻の産地でも今では麻を織られているところがほとんどないのです。高齢化も進んで織機があってもほとんど動いていません。麻織物の産地ながら輸入生地、キバタや他産地での織布になって、本当の産地の織物ではなくなってきているのです。織職人さんがいなくなり、織りの技術というものが消滅していく過程にあり、夏の麻織物の最高峰を誇った近江上布の流れを汲み、日本の高級麻織物の本場の近江産ですが、”近江”を語れども実際の近江湖東産地で織られたものというのは1割にも満たないと思います。アイリッシュリネンと同じ過去の産物としての道をたどりつつあるのではないかと危惧しています。そんな気持ちで、取り組んでいるのが、近江の湖東産地で、世界最高峰と謳われる本物のアイリッシュリネン糸の超細番手を織ろうというアイリッシュリネンハンカチプロジェクトなのです。