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リネンや麻を織る日々をつづっています。
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リネン日記
織機の立ち上げ
2018年11月05日
織機に掛かっていた縦が順番に終わって、織機が空いてくる。機を乗せ換えするなど織機の立ち上げや新たなビームを繋ぐなど。一本のビームが織りおわると長い旅が終わったような錯覚に陥るが、織り終わってからもシャトル織機の場合には糸切作業が必要で、加工出し前の検反作業が必要である。織のプロであるかないかは検反作業でも分かる。上手な人が織ると1反に5箇所以内のキズに収まっているが、下手な人が織ると修正作業が織るよりも何倍も時間が掛かることがある。

織り手さんというのは、何台も織機を動かしながらキズを出さないようにどれだけ良い生地を多く織ることができるかが技である。沢山織れても問題ばかりだと織らないほうがまし。麻糸の場合にはキズは付き物なのだけど、許容範囲に収められるかどうかがポイント。自分が失敗しなくても糸が切れて汚く織れてしまうこともあるが、そういうのが1反50mで5箇所以内に収まっていないと駄目。上手な人は織り段ができないが、下手な人は織り段だらけになる。同じ織機を使っても人が違うと、結果として生まれる反物の良し悪しは分かれる。

一番駄目なのが、糸をまっすぐ繋いでいないこと。なぜ糸を順番にまっすぐでないと駄目なのか理屈は分からなくても、全部順番に正しくといわれてそれを軽く考えてしまう、素直さの無い人は、織ることに問題を多く抱えてしまう。理屈としては糸がまっすぐ走っていないと、ドロッパーのところで交差してドロッパーが落ち難くなりやすいから、糸切れしやすくなるだけでなく、糸切れしても縦糸切れを感知し難くなり、縦糸切れのままキズで織れてしまう。

細い繊細な糸だと交差してしまうだけで糸に抵抗が掛かり、糸が弛んできたりすることがある。それが分からず糸に錘を掛けたりして行き当たりばったりで織っているとどんどんと錘の数が増えてくる。糸切れなどしたときに、糸をまっすぐに繋がないといけないのだけどもそのコツをおしえてもなかなか実践せず、手元で見つけた糸を適当にそのまま繋いでとか。経験の長さの問題ではなくて、ちゃんとできる人は最初から教えてもらったらちゃんとするけど、ちゃんとできない人は毎回ちゃんとしないまま駄目な作業が続くことが多い。

日本の製造業は高度なものをつくって生き残るという話になるけども、それが本当に難しい話。一つの織物に経4色、横4色とか使う織物だと、3配色あると24色の糸を使うことになる。横糸だけで、12色。普通の平織だけど色数が多いので高度なデザイン性の高い織物の一つであるが、その糸の管理にしても現場の年配の方が理解できるのかというとそれは難しい話。全部、どの品番の何番目の糸が書いた新しいビニールに糸を分けて入れてわたしても、ビニールを別の用途に使いたいのだろう、つぎに行ったときにはビニール袋は消えて糸はまとめて箱に入れられてしまっていてとか、できないとか分からないのを心配して完璧に用意してもどうしようもない話。

高度な織物をつくることよりも現場の人が失敗しないように仕事をしてもらうのにすごい力が必要になってしまって、普通の白い無地の織物の仕事も危ないということも多いので仕事があっても仕事をしてもらえなくなる。私自身、仕事というのはあってもタダでお金がもらえるわけではなく、貰うお金以上の苦労があってお客様には喜んでもらえるものと考えている。なんで仕事を出さないんだみないたことを言われる下請け業者さんもおられるけども、なかなか今のリズムについていくのは難しいだろうと思うことが多い。サンプルが1ヶ月以内に出来て、本生産も2ヶ月でできるような体制だといろんな仕事が受けられるだろうけども。そういうのを先染の世界やプリントの世界でやろうとしても納期的に無理で、コスト的にも難しいという話以前に、失敗すると作り直すにしても時間もないし現場にそれだけの覚悟があるのかというと仕事は欲しいがというところで終わってしまうと思う。

堅牢度などを上げる方法でも確実な方法があるけどもそれをやってもらえるかどうかという問題もあるが難しいという結論。なぜ、今のものは昔のものよりも堅牢度が悪いのかという問題にもつながる話ではあるが、全体のレベルが下がったときに高度なものを流すことは納期の面も含めてなかなか難しいのである。染色工場やプリント工場なんかでもなぜ、1ヶ月ほど時間が掛かるのかというと、仕事が一杯ということもあるだろうけども、染色を伴う工程では洗浄という作業が伴い薄い色から順番に染めていって濃い色を染めて、黒や濃色が終わった後、強烈な清掃洗浄を行い、薄い色に戻るというような釜の使い方がされているところもある。ものづくりを安全にするためには良い方法ではあるのだ。実際に洗浄というのは水や洗剤を大量に使うので、毎回強烈な洗浄が理想かもしれないがエコな側面も考慮は必要だろう。そういうサイクルを合わせるために1ヶ月くらいの時間が必要となる事情もある。これは加工工場さんでも同じで、濃い色のもののあとに薄い色のものをいくといくら洗浄をしていても色移りなど危ないことはある。麻の産地では、秋から春先までの生産時期には、先染だと、染で1ヶ月、巻き返し1週間、整経経てつなぎ1週間、織り1週間から1ヶ月、加工2週間から1ヶ月くらいのような合計3ヶ月から4ヶ月の納期計算になる。12月初めに本生産の注文が入っても納期は3月末とか。見本から考えると半年から1年、一つの仕事に携わることになり、そういう仕事を並行してこなしてゆくことで仕事が全体として流れて行く。