2021年10月22日
林与も産地で麻織物を織っていても織物の仕事も続いているのは、偶然的な要素が大きいと思う。がんばっているからといって仕事はうまく行くとは限らないし、かといって、がんばってもいないとチャンスに巡り合うこともできずまた、チャンスすらも生かせないということはあると思う。いろんな物事が惑星直列のようにつながって、お客さまにも支えていただきながら、麻布が生産できているようなあたり。
まずは、外に技術を求めるではなくて、自分の周辺にあるものを組み合わせて何ができるのを考えて、自分発みたいなものづくりを考えてゆくのが良いんだろうと思う。本業としてやっているので、基本の生産設備にプラスアルファの設備要素や技術要素と、一番独自性を出しやすいのが人的要素だと思う。アイデアという要素だけじゃなくて、そこに他を超えた極限みたいな要素とか、独自の味っぽい要素とか。
他である売れ筋の技術にあこがれるのは、愚の類なんじゃないかとおもったりもする。売れているからそれを求めているみたいな、ものづくりの環境をしっかりと把握してその中でどんなものが生み出せるのかみたいなアイデアが大事で、そういうところからオリジナリティは生まれてくるものだと思う。オリジナリティのためには、売れているものばかりじゃなく売れていないものでも自分だけが継続していくというのは大事なことで、それが一つの世界をつくりあげてゆく基本的な要素。
産地でも麻ブームの後は、高級とされた麻織物を売るのはどんどんと難しくなって、それでも麻織物にこだわってみたのが林与で、どんどんと規模は小さくなっていったけども、産地の特色であるとされる、細番手の先染麻織物の世界を残せてそれでよかったんじゃないかと思う。実際、今、細番手の先染麻織物を織ろうとすると林与自身が織ってもそこそこ我慢が必要なことがあるので今の糸の弱さなどからもするともう織るのは本当に難しいと思う。
10年ほど前に手掛けた150番手リネンを先染で織る超細番手プロジェクトは、やっぱりやっておいて正解だったと思っている。それまでは100番手以上のリネンというのは普通は織れないといわれていたのに産地の糊付けの技術で110番手、125番手、150番手の現行リネンをシャトル織機とレピア織機で服地幅で織った。今、やろうと思っても、糸の吟味から、それなりの力は必要である。昔のアイリッシュリネン糸を織るプロジェクトも糸だけでなく、他の環境が揃わないとなかなか難しい話なので、その時に手掛けておいて本当によかった。あのタイミングを逃していたら今もそういうことを実行したいと思っても実行はできていないだろう。あの時はデフレ不況でかつてないほど高級なものが売れないとされた時期でそのときに超高級路線を提案でき、昔からの麻を知っておられる方やリネンフェティッシュな方にはご評価をいただけた。
2000年以降は業界ではアイリッシュリネン糸がもうまったく手に入らなくなっているのに、2000年以降も日本の市場には北アイルランドで紡績されたアイリッシュリネン糸を使っていると謳うものが大量に出回っていたが、そのような問題も消え、業界のリネンの糸の産地に関する正しい情報という面で貢献できたのではなかろうか。近年のリネンに疑問を感じられていた、昔からのアイリッシュリネン愛好家の一般の方々からは疑問が解けたというメールをいくつもいただいたりもした。
2000年から2008年あたりまで、天然繊維では、カシミヤ偽装問題、オーガニックコットン偽装問題、アイリッシュリネン偽装問題など。デフレのなか多くの高級素材が技巧されてしまっているケースが頻発していた。高級を謳う一番の謳いが嘘であることも疑わないといけないくらい日本の百貨店店頭も含むアパレル業界で産地偽装、品質偽装が多くみられた時期である。