2022年10月30日
先日のビジネスマッチングイベントでSDGsの取り組みに関して5分ほど話させて頂く機会があって、まず、林与のような昔ながらの小さな企業でも日本の中で残っていくのは相当覚悟のいる大変なことであることで、天然繊維の織物が国内でこの先存続できるのかという大きな問題が日本の中にあって、それに関してはそれほど国内では危惧もされておらず、海外の繊維業界に関しては働いている人日の生活など危惧がされていても、国内の繊維業界というのは競争力がないとか、斜陽産業だとかいう位置づけで、昔ながらの織物業を取り巻く環境は厳しい状況であること。だからこそ、自分自身が織物を織つづけていくこと自体が繊維業界におけるサステイナブルな取り組みだろうと考えている。なぜ、取り巻く環境が厳しいのかというと、以下のような背景がある。
ロスや無駄をなくすというと、ジャストインタイム、小ロット生産、在庫ゼロの考え方というのは、優良企業的なのだけども、それを受ける側というのは無駄ばかり。トータルで見ると無駄を意識せずの生産方法ではある。織物の生産現場には無駄ばかりが残ってしまう。サンプルの時につくった10mのうちの着分3m以外の残りとか、50m作ったうちの15m以外の残りとか。またいろんなサンプルのバリエーションをつくって残った部分とかも。アパレルさんにとってはそれは関係のないものになるのだけども、実際に生地を企画されるときにそういったトータルなものづくりがみえていないと、ロスのことすら頭になく、意識高い系のロスゼロでそれは単に利益目的でトータルな考え方が無かったりする。
林与的考えると、定番的なものをベースにして、シーズンに問われずに作ったものを次の年にも店頭に並べることができるようなスタイルが、ロスゼロに近い概念に結び付く。今までのようにセールで売る形だと、発注量が200mだとかだとして、200m納めるためには、240mくらい生産する計画で、200mに必要量の、1.3倍くらいの糸と糸染めをすることになる240m織れたとして、どれだけ加工縮みや加工ロス、キズ引きなどがあるかで、220mくらいに落ち着いて、そこから200m程度を納めることになる。
ショート厳禁のブランドさんだと余計にショートしないように多く材料を投入するので無駄が多くなるし。1反の長さを50mのプラスマイナス5%以内とかのブランドさんだともうお付き合いは難しくなる。そういうブランドさん向けにはオリジナル的な生地は生産しないほうがリスクが少なくてよいのである。ブランドさんの規定で使える生地も使えないという問題は、最初に言ってもらえれば断って進めるか、仕事自体を断って済ませないと。最初に書いた、ロス程度のロスでは済まない、1反単位のロスができて、またもう一度追加で作り直すような話も出てきたりする。
納期なんかに関しても、今の日本の体制で品質検査などもある場合に、ぎりぎりの予定で仕事を受けている状態で、品質検査が通らなかった時にはどうするのか?とか。ジャストインタイム、小ロット生産、在庫ゼロというのは、単純な組み立てとかの製品には適しているかもしれないけども、一から素材をつくるとなると組み立て作業ではないから、いろんな問題などが起こるを想定してスケジュールも柔軟に考えておかないとエシカルなものづくりは実現をしない。
織物の現場の仕事でも、この仕事を他の誰ができるんだろうかと考えるときに、普通は技術的にも体力的にも難しいような仕事だろうと思う。そこにいろんな制約ばかりをぶつけてみたところで、余計に仕事が難しくなるだけのことで、いろんなところでどんどんと無駄が出てきてしまうのである。実際に無駄と向き合って解決する能力を持つことも大事で、作ったものが残ったときにそれを料理する力みたいなものがアパレルさんにあったらよいと思うし、なければ林与にあるようにしないといけないと思う。
今は、お客様の長く扱っていただける定番素材や、林与の自社生地を使ってもらうような形も増えてきた。アパレル業界の展示会受注方式というのは、アパレルの次のSS展示会は10月ころに行われるのが普通で、11月末くらいに発注量が決まり、12月頭に生地の本生産の数量が決まる。そこから糸を染めるにしても、フル生産の時期に12月中に染められるのかという問題がある。年を明けるともう1月末とかの納品は難しくなる。加工ですら2週間、ときには1か月掛かることもあったりする。正しく生産できたとしても、そこに品質検査などがあって、引っかかってしまうと再加工など。最初から展示会受注方式というのは、手間のかかるモノづくりには向いていない方式で、今の日本ではどんどんと難しくなってしまっているように思う。