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リネンや麻を織る日々をつづっています。

リネン日記

アイリッシュリネンハンカチ生地

2016年06月08日

昨年の秋から糸の糊付けを準備し始めたビンテージアイリッシュリネン140番手のハンカチ生地がようやく加工から上がってきました。やはり100mほどを作るのに1年近く掛かってしまっています。この100mから200枚程度のハンカチを作って、残りは生地として販売する形になります。ハンカチとしては十分高いとは思うのですが、1枚、12000円の特別価格で、販売を開始いたしました。ハンカチ縫製が今月中に終わるものと思いますので、お渡しは7月始めころからになります。

ビンテージアイリッシュリネンは、古いだけではありません。今のリネンにない味が感じられます。ビンテージアイリッシュリネン140番手ハンカチに使われている糸は、アイリッシュリネンの名門といわれたハードマンズ社サイオンミルで紡績された糸の中でも最細番手に位置し、サイオンミルでの紡績も1990年代後半には、アイリッシュリネン紡績の語り部プロジェクトが立ち上がっているので、1990年代には終焉していたとされていたとおもわれますが、サイオンミルは2004年に完全閉鎖されたことにより、アイリッシュリネン紡績の400年の歴史の幕が閉じたといわれています。

このサイオンミルで紡績された140番手を使用したハンカチは、アイリッシュリネンの象徴的な名残の糸のひとつで、弊社に残る200kg程度が現存する最後の在庫ではないのかと思われます。ほかにも同じくサイオンミルで紡績された100番手生成が数百キロとアンドリュース社のゴールデンアイリッシュリネン糸80番手が200kgほど残っていますが、合わせますと弊社に残る1トン余りが北アイルランドで紡績されたアイリッシュリネンの細番手を辿ることのできる生きた資料だったりします。ほかの番手も含めると弊社のアイリッシュリネン糸は2トンから3トンくらいあるでしょうか。それを今も織って製品を作ることができるのは幸運でしかないと思えるのです。2000年以降に、世界のある有名ブランドがアイリッシュリネン糸を手に入れることができなく、復活させようと動いたと聞いてはおりますが、その有名ブランドですら見つけ出すことのできなかった幻の糸が今も織れる形で残っているのです。

それはアイリッシュリネンが残っていたというだけでなく、そういう細い糸を織るための糊付け技術と1970年代当時にも存在した加工方法が、10年一昔で今も産地の中には残っているのです。そして林与自身も織る技術を発揮しました。140番手の織りは、平均、一時間に50cmほどしか織れていないと思いますが、100番手でも1時間1mほどですので、それだけ織れれば上等ではないのかと思っています。昔ながらの方法で、できる限り密度を高く織ってあり、超細番手ながら、シャトル織機でしっかりと織り上げてあります。

ご覧いただくと、一瞬でその高級感に気がつかれると思います。一番の特徴は色にあるんじゃないかと思えます。ややゴールドがかったオフ白がビンテージらしさを奏でています。ほかの生地と同じく、一週間の未使用条件になりますが、ご満足いただけない場合にはご返品も可能です。まずは手にとって眺めていただきたい一品なのです。

同じハードマンズ社の糸でも、ダブリンの40番手の糸なんかは、明らかにグレーで粗野な感じがして今の糸に近かったりします。アイリッシュリネンじゃあないですが、もっとめずらしいフランス紡績のルブランの25番手なんて生成りがゴールドそのもので、今は手に入れることのできない糸で、糸からして芸術で、ある審査会では、審査員の方から、昔の糸を織るのがどこが新商品の開発なんだと酷評をいただいたこともありますが、実際のものづくりの現場で本質を追い求めるのと新技術依存で安価な量産型の開発とでは根本的な方向性が違うのだろうと思うところです。

後者であるなら地場産業とは相反する概念で早く手を引いたほうがよかろうと思うのです。織機メーカーが自動車メーカーや工作器機メーカーに変わるみたいな結果を産業の発展とせよみたいな方向性だろうと思うのです。何代にもわたって村や地域の産業規模導の中で集積し導き出された結論的な技術を超えるものが、数億かけても数年でできるのかというとそれは浮き草でしかなかろうと思います。半導体産業が数千億の規模であろうが時代の波に飲まれて消えてゆく、繊維産業というのは世界の先端に立とうとすれば数千人規模の集積が必要で、それを日本で賄おうとすれば、一ヶ月に2億円から10億円規模の人件費が最低必要で、それに匹敵することが少人数でできるのが日本の魅力で日本の力なのだと思うのです。

地場産業というのは本質を引き継いでいくような部分があろうかと思います。その時々に流されつつも本質は忘れないみたいなところで、本質の部分は世界でただひとつとかで損得じゃない部分なのだろうと思うのです。新技術なんて半年もすれば似たようなものが溢れ、どうせお金をかけるなら、失われた本質を取り戻すということで、時代を超えても変わらない世代を超えた価値観を日本のものづくりに追い求めるみたいなところも評価されてよいのではないかと思うのです。事実、世代を超えるものづくりができるのは、イギリス、イタリア、フランス、そして世界でも一番強いのが、戦後はものづくりがコピー化やサラリーマン化し薄れたといいながらも、まだまだ日本じゃないかと思うのです。

ハンカチひとつ作るのにややっこしく考えすぎなんだろうけど…。


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